食料確保や社会貢献をしつつ稼げる方法として、狩猟に興味をもつ方が増えつつあります。
趣味としてはもちろん、副業で週末や連休中のみ狩猟するスタイルも人気です。
この記事では、副業としての猟師はしっかり稼げるのか、始めるにはどのような手続きや準備が必要なのか紹介します。
狩猟とは
狩猟とは、野生の鳥獣を銃や罠などを使用して捕獲することです。
日本では「登録狩猟」と「許可捕獲」の2種類があり、どちらも狩猟免許(免状)の取得が求められます。
登録狩猟とは
登録狩猟は、11月~3月までの狩猟期間中に、狩猟可能な場所で捕獲を行うことです。
具体的な狩猟期間は、自治体ごとに異なります。
狩猟免許を取得後、出猟したい都道府県に狩猟者登録をすれば、誰でも登録狩猟できます。
注意点は、登録狩猟で捕獲できる鳥獣の種類が規則で定められていることです。
指定された狩猟鳥獣のみ、狩猟期間、狩猟区域などの条件を満たしたうえで行う必要があるため、トラブル防止のためには各ルールの事前確認を忘れないようにしましょう。
許可捕獲とは
あらかじめ自治体からの許可を得たうえで行うのが、許可捕獲です。
たとえば農作物を荒らすアナグマやタヌキなど、有害鳥獣捕獲のために許可を受けて狩猟をすることがあります。
農林業被害や生活被害の防止のための許可捕獲は、春~秋に行うのが一般的です。
有害鳥獣捕獲のほか、学術研究や伝統的な祭礼行事への利用など、駆除以外の目的でも許可捕獲を行う場合があります。
通常は「許可捕獲」の手続きが必要ですが、ドブネズミ、クマネズミ、ハツカネズミは環境衛生への支障を理由に、許可なく捕獲できるとされています。
狩猟が許可されている鳥獣の種類
狩猟鳥獣は、鳥獣保護管理法施行規則によって鳥類26種類、獣類20種類のみが狩猟の対象として許可されています。
鳥類 | マガモ、カルガモ、コガモ、ヨシガモ、ヒドリガモ、オナガガモ、ハシビロガモ、キジ、ヤマシギなど |
獣類 | タヌキ、キツネ、ノイヌ、ノネコ、テン(ツシマテンを除く)、イタチ(雄)など |
ただし、地域によっては狩猟鳥獣に該当していても生息数の減少によって捕獲が制限されている場合があります。
捕獲自体を禁止していなくとも、捕獲数が定められている種類もあるため、出猟する地域のルールを事前に確認しておくことが大切です。
また、捕獲数が明確に定められていない地域においても、必要以上は獲らないことが猟師のマナーです。
副業で狩猟を始めるときの流れ
捕獲した鳥獣は自分や家族の食料としたり、身内にお裾分けしたりするほか、第三者へ販売もできます。
肉以外の部位にも高い需要のある鳥獣を捕獲すれば、副業として十分な収入になります。
副業での狩猟を成功させるためには、必要な手続きや道具の用意など、いくつかの準備が必要です。
ここからは、副業として狩猟を検討している人へ、必要な免許や手続きなど準備の流れを紹介します。
1.狩猟免許を取得する
まずは、狩猟免許試験を受験して合格・免許取得を目指しましょう。
狩猟免許試験は各都道府県で毎年複数回行われており、詳しい試験日は自治体ごとに異なります。
試験日前には、狩猟免許試験事前講習会が行われます。 講習会自体は任意参加となっており、必ずしも受講する必要はありません。
ただし、講習会では試験における実技問題(猟具技能試験)の事前対策ができるので、可能な限り参加することをおすすめします。
狩猟免許試験事前講習会の参加費用は、自治体によって異なります。 講習会の次は、いよいよ狩猟免許試験です。
狩猟免許試験は、以下の順番で実施されます。
- 知識試験
- 適正試験
- 鳥獣の判別試験
- 猟具技能試験
- 目測試験(銃猟免許のみ)
狩猟免許には下記の4種類があります。
- 第一種銃猟免許(散弾銃、ライフル銃)
- 第二種銃猟免許(空気銃)
- わな猟免許
- 網猟免許
第一種銃猟免許と第二種銃猟免許を受験する人のみ、目測試験も行われます。
初心者がつまずきやすいのは、猟具技能試験です。
一発合格を狙いたい方は、事前の狩猟免許試験事前講習会でしっかりと学び、試験日までに自宅でも繰り返し練習しておきましょう。
2.猟具を揃える
狩猟免許試験に合格したら、次は法定猟具を揃えます。
市販品を購入するほか、規制内の仕様であれば自作でも構いません。
狩猟はどの猟具を使用するかによって、「わな猟」「網猟」「銃器(装薬銃・空気銃)」の3種類に分けられます。
- わな猟…くくりわな、はこわな、囲いわな、など
- 網猟…むそう網、はり網、なげ網、など
- 銃器(装薬銃・空気銃)…散弾銃、ライフルなど
罠を設置するだけの比較的手軽なわな猟、網猟の場合は、猟具の所持に関する許可や免許などの申請は不要です。
ただしワイヤーの直径など罠の仕様に厳密な規則があるので、事前に確認しておくことが大切です。
3.銃砲所持許可の取得
狩猟で銃(猟銃・空気銃)を使うなら、第一種銃猟免許と第二種銃猟免許の試験に合格した後、さらに銃砲所持許可の取得が必要です。
狩猟や有害鳥獣の駆除、標的射撃を目的とする場合のみ、銃砲所持許可を申請できます。
銃砲所持許可を取得するためには、まず管轄の警察署で猟銃等講習会(初心者講習)の受講が必要です。 講習会で教習射撃と実技試験を受けたうえで、銃を購入します。
住所地の都道府県公安委員会へ、購入した銃の所持許可を申請し、添付した必要書類などに問題がなければ許可が下ります。
入手した銃砲は購入から14日以内に管轄警察へ持参して、猟銃の確認を受けましょう。
注意点は、銃砲所持許可には下記のとおりいくつかの規則があることです。
- 銃砲1丁ごとに申請が必要
- 購入できる銃砲は3種類のみ(ライフル銃、散弾銃、空気銃)
- ライフル銃は原則10年以上の所持を前提とする
- 75歳以上は、認知機能検査や講習の受講が必要
- 銃砲所持許可の取得後は3年ごとの更新が必要
- 毎年必ず警察署での検査を受けること
銃砲は「1銃1許可制」となっており、複数の銃を所有したい場合は銃器1丁ごとに申請を行わなくてはなりません。
所持許可を受けた後も、3年ごとの更新を行ったり、毎年1回警察署に持参して検査を受けたりします。
銃砲の購入方法と保管方法
銃砲は新品や中古を購入するほか、高齢などの事情で引退する先輩猟師から無償譲渡を受ける方法もあります。
購入するとなると、中古品でも安いとはいいきれません。
申請にも費用がかかるので、譲渡を受けられる場合は前向きに検討しましょう。
大日本猟友会が「第一種銃猟構成員の新規加入者に対する支援事業」で若手猟師に支援金を支給する制度もあるので、購入費用にあてるのもおすすめです。
(出典:大日本猟友会「第一種銃猟構成員の新規加入者に対する支援事業創設について」)
銃砲所持許可を受けた銃砲と実弾(実包)は、それぞれ専用のガンロッカーと装弾ロッカーで保管することが義務付けられています。
ガンロッカーにもいくつかの規則があり、基本的に盗難防止のため壁にボルトで固定しなくてはなりません。
賃貸物件住まいで自宅にガンロッカーの設置が困難な場合は、銃砲店に委託保管を依頼する方法もあります。
4.出猟する地域で狩猟者登録
出猟するときは、狩猟したい山林のある都道府県に狩猟者登録を行う必要があります。
狩猟免許だけでは、狩猟できません。
狩猟者登録を行うときは、狩猟者免状(免許)のコピーまたは原本を持って申請に行かなくてはならないので、先に狩猟者免許をとっておきましょう。
狩猟者登録は、都道府県ごとに申請が必要です。
たとえば県をまたいで狩猟する場合は、隣接する都道府県にも申請しておかなくては、トラブルのリスクが生じます。
申請時は、登録手数料(1,800円)のほか、狩猟税(5,500円~16,500円)を支払います。
狩猟税は、狩猟方法や免税の有無によって金額が異なります。
また、申請時に3,000万円以上の保障ができることを証明する書類の提出も必要です。
通常は、一般社団法人大日本猟友会の共済事業または一般の損害保険(ハンター保険、特約など)の加入事実を証明する書類を提出します。
主に狩猟中の銃や罠、猟犬による事故が生じたときの保障に利用します。
同条件(3,000万円以上の保障)を可能とする資産を保有している場合は、資産を証明する書類で保険加入証明書の代用ができます。
5.猟期内で狩猟を行う
狩猟者登録を申請すると、後日に申請した都道府県から狩猟者登録証などのグッズ一式が届きます。
基本的な封入物は、下記のとおりです。
- 狩猟者登録証
- 狩猟者記章(ハンターバッジ)
- 鳥獣保護区等位置図(ハンターマップ)
- その他(書類など)
狩猟者登録証に記載されている登録番号は、罠を仕掛けるときに標識に記載したり、トラブル時にきちんと申請した猟師であることを証明したりするために必要です。
ハンターバッジは、狩猟区分(第1種猟銃免許、わな猟など)ごとに色が異なったピンバッジです。
登録証と同じく申請済みの猟師であることを証明するアイテムであり、狩猟時は防止や衣服などに必ず取り付ける必要があります。
事前に取得しておいた銃砲所持許可証も、出猟時に携帯します。
狩猟者登録証やハンターバッジを紛失したときは、申請した都道府県で再発行を依頼しましょう。
ハンターマップは、鳥獣保護区や特定猟具使用禁止区域などを記載した地図です。
上記のうち、狩猟者登録証のみ返却義務があります。
狩猟者登録証の有効期限は、毎年10月15日または登録日から翌年の4月15日です。
猟期が終わった後は、必ず都道府県への返却が必要です。
狩猟を副業にする方法
狩猟を副業にする方法は、「獲得した獲物を販売する」または「有害鳥獣の駆除で報酬を得る」の2種類です。 それぞれ詳しく解説します。
獲得した獲物を販売する方法
仕留めた獲物は、肉、皮、爪、角などが販売できます。
たとえば鹿は角に漢方としての需要があり、肉以外の部位でも稼げる人気の獲物です。
ただし、野生鳥獣を解体、精肉、販売する場合、食肉処理業と食肉販売業の許可を得ていなくてはなりません。
許可を得ずに獲物を販売すると、仮に相手が友人であっても食品衛生法違反にあたります。
また、食肉として捌く場所も、保健所の許可を受けた施設に限られています。
猟師が獲物を取った場所でできる処理は、血抜き(放血)程度です。
自分で食肉処理業と食肉販売業の許可を得て、販売するまでの作業が難しい方は、獲物を加工せず販売しましょう。
獲物で利益を得るためには、ジビエ肉の買取を行っている食肉加工業者へ、買取を交渉する必要があります。
業者ごとに買取の基準や金額が異なるので、出猟する前にしっかりと情報収集することが大切です。
有害鳥獣の駆除で報酬を得る方法
自治体からの依頼で有害鳥獣を駆除し、報酬を得る方法です。
狩猟期間のある登録狩猟とは異なり、自治体からの依頼さえあれば1年中出猟することがあります。
有害鳥獣の駆除を行うためには、地域の猟友会に入り、鳥獣被害対策実施隊の隊員にならなくてはなりません。
猟友会で一定期間の経験を積み、推薦書を得た方のみが隊員になれます。
有害鳥獣の駆除で得られる収入は、国からの報奨金が主です。
地域や獲物によって異なり、1頭につき数千円から数万円程度の報奨金が支払われます。
鳥獣被害対策実施隊の隊員になるまでの期間を考えると、狩猟者登録証を得てすぐに稼ぎたい派の方には、向いていないといえます。
すぐに稼げるようになりたい方は、狩猟期間内に獲物を獲得して販売する方法を検討しましょう。
狩猟で稼ぐコツ
狩猟を副業とするためには、獲物をしっかりと獲得する方法や、お金に換える方法を知っておくことが大切です。
ここからは、狩猟を副業にするために、稼ぐコツを紹介します。
出猟スポットを下見しておく
相手は野生動物のため、出猟すれば必ず出会えるわけではありません。
繰り返し下見をして、獲物と遭遇しやすい場所を絞っておきましょう。
狩猟期間外であっても、山林を歩いて下見することはできます。
カメラを活用したり、記録を取ったりして、獲物が出やすい場所と時間帯を調べます。
小さい獲物は、瞬時に狩猟を許可されている種類かどうか見分けることが困難です。
猟場の下見ついでに獲物の種類を見分ける訓練もしておくと、狩猟の成功率を上げられます。
矢先(銃口を向けた先)に道路や建物など人が通りやすい場所がないか、鳥獣保護区や特定猟具使用区域にかかっていないかなども確認しておくと安心です。
自分に合った狩猟区分を選ぶ
銃猟はテクニックが必要であり、初心者にはハードルが高い狩猟区分です。
そもそも銃砲所持許可の取得自体が難しいとされており、申請すれば必ず許可が下りるわけではありません。
たとえば添付書類(医師の診断書など)の内容に問題点があれば、許可は下りない可能性が高くなります。
仮に銃砲所持許可を取得できたとしても、獲物を仕留められなければ、その日の収穫はゼロです。
銃猟は一度発砲して半矢(命中したが仕留め切れていない状態)になった場合、必ず最後まで追跡して仕留めることが義務です。
自分のレベルでは銃猟が難しい、思うように捕獲できそうにないと感じたら、わな猟など挑戦しやすい狩猟区分から体験することも検討しましょう。
情報収集を行う
狩猟期間中は、ほかの猟師も同じ地域で狩猟を行っている可能性があります。
ほかの人が仕掛けた罠にかかったり、自分の罠で誰かに怪我をさせたりすることがないように、狩猟スポットは慎重に検討することが大切です。
また、効率的に獲物を見つけられるように、猟場以外の場所でも情報収集を積極的に行いましょう。
たとえば実弾(実包)や銃砲を販売している業者は、情報収集先に最適です。
ほかには地域の猟友会に入り、先輩から狩猟に適した場所を教えてもらう方法もおすすめです。
まとめ
猟師を副業にする場合、捕獲した獲物を食肉や漢方・アクセサリーなどの素材として販売する方法や、有害鳥獣の駆除で報酬を得る方法があります。
短期間で稼げるようになりたい場合は、有害鳥獣の駆除よりも獲物を販売する方法がおすすめです。
どちらの方法で稼ぐ場合も、狩猟免許や狩猟登録証などの取得が必要です。
まずは各都道府県で実施されている狩猟免許試験事前講習会に参加して、狩猟について学びましょう。